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この「健康調査」の詳細は、いずれ宮城県のサイトに掲載されるとのこと。

森永 宏喜
【月命日の定期便 27か月め 繋ぐ支援を妨げるもの】

 昨年9月から12月にかけて、宮城県内の被災10市町のプレハブ仮設住宅(以下単に「仮設」とよぶ)の住民を対象に健康調査(1万5979世帯を対象に実施、2万1450人が回答し回収率58.6%)が行われた。昨年度には民間住宅を自治体が借り上げて被災者に提供する「みなし」仮設に対する調査は行われたが、「仮設」に対するものは今回が初めてだ。
その結果を詳しくみていくと、「仮設」の住民が置かれている過酷な状況が浮かび上がってくる。

入居者の疾患別の罹患率を昨年の「みなし」での調査と比較すると、1.5倍以上になっているものだけでも高血圧、糖尿病、がん、心疾患、脳血管疾患、透析などの生活習慣病が並ぶ。母集団が異なるものであり単純な比較は出来ないが、傾向として深刻さを増しているのは間違いないだろう。

また「病気はあるが治療を受けていない人」の割合は昨年の「みなし」が2.2%に対し、今回の仮設では5.8%と倍以上。これは独居高齢者(65歳以上)が昨年の「みなし」の6.0%に比較して「仮設」は16.4%ということ、交通アクセスの不便さが大きく影響していると思われる。

他にも「心理的ストレス」の問題など深刻な状況だが、中でも「朝から飲酒する」という人の割合が50~60歳代の男性で5%を超えているというのが非常に「危機的、後がない」という印象を受ける。
仮設住宅でのアルコール依存が一番問題となるのは、それが「うつ」と「自殺」に密接に関連しているためだ。栄養学的に言えば大量、継続的な飲酒はビタミンB6、B12やニコチン酸、葉酸などのビタミンB群を大量に消費し枯渇させる。それらのビタミンB群は脳内神経伝達物質であるドーパミン、セロトニン、GABAなどの合成経路に補酵素として不可欠なもので、これらの合成低下によって自律神経などのコントロールは困難になってゆく。それがアルコール依存症とうつ病併存の一因となり、自殺との関連を強めていると危惧されている。

NPO法人ASK (アルコール薬物問題全国市民協会)」のサイトなどからも、阪神淡路大震災でも避難所の段階からアルコールの問題は出てていたということがわかる。それは当然のことながら「仮設」に移っただけで解決されるような問題ではなかった。「教訓を生かす」ということは口で言うほど簡単なことではないのだ。 

現状がひっ迫するにつれ行政にも新たな動きが出てきてはいる。石巻市社会福祉協議会はこの4月から、仮設住宅などで暮らす被災者のケアを充実させるため「地域福祉コーディネーター」を導入、助言役として専門知識を備えた「地域福祉アドバイザー」も配置した。関係機関と調整し、被災者が抱える課題に即した支援策を整えるという。現在7名が配置され、さらに3名を募集中とのことだ。
しかし活動開始からまだ2ヶ月あまりでしかなく、現地からの情報によれば「医療職を中心とした会議にオブザーバー出席したり、健康相談会や仮設でのサロン活動などを視察したりしながら現状の把握に動いている」という段階とのこと。現時点では仮設住民に対して効果的なアクションを起こせる状態にまでは至らないようだ。

「やらなければいけないことが多すぎで手薄になってしまっている、それが実際だと思います」

 宮城県内の仮設住宅で、医療支援に関する民間レベルのコーディネートをしている知人はいう。

「行政と医療機関の間で情報共有がまだ不十分。行政から情報が提供されないので、仮設の現状を把握している医療機関はごく一部」と嘆息する。

「精神的なケアを必要とする被災者には、市町の担当者が戸別訪問をするなどして、しっかり対応する」

県の担当者はこうコメントしているが、せっかく助かった命の灯をつなぐ体制を構築するための時間的余裕は、非常に短い。

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